慶應SFC期末試験の「Apple Watch禁止令」に見る、大学の未来

2015年7月10日

慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)は2015年度春学期定期試験より、全ての時計を禁止することを発表しました。

慶應義塾大学の発表内容

keio sfc

慶應義塾大学の発表した文面は以下のとおり。

2015年度春学期定期試験より、
すべての時計(腕時計・置時計・ウェアラブルウォッチなど)の持ち込みを不可
とします。受験生への注意事項を確認してください。

なお、試験教室には時刻確認のための時計を表示します。

また、健康上の理由によりウェアラブルデバイスの使用が必要な人は、7月17日(金)までに学事担当窓口に申し出てください。

慶應義塾大学-塾生HP-【総環】2015年度春学期 定期試験時間割・試験形態

発表の内容としてはスマートウォッチだけでなく腕時計、置き時計を含む全ての時計の持ち込みを禁止するというもの。全ての試験監督に普通の腕時計とスマートウォッチを見分けろというのも難しいので、試験中スマートウォッチによるカンニング行為を禁止するのであれば妥当な判断でしょう。学生の時計の持ち込みを完全に禁止し、全ての試験会場で時計を用意すると記載しているので、試験中のペース配分に時計が欲しい学生からも納得できる対処なのではないでしょうか。強いて言うならば、視力が悪い学生への救済処置が欲しいところです。

なぜこのタイミングで禁止したのか

apple watch moto 360

今回慶應義塾大学がこのような対策に踏み切った背景にはやはり、Apple Watchの発売というイベントが無視できない要素としてあるのではないでしょうか。スマートウォッチの分野では何年も前から他社の市販の製品は存在しましたが、スマートフォン・コンピュータ市場でこれほどシェアを握っている認知度の高い企業がスマートウォッチ分野の製品を発売したともなると、多くの学生が「腕時計でカンニングできる」と思いつくはずです。今回「腕時計禁止令」が出された理由はずばり、Appleによって知らしめられたApple Watchによる、通信可能な腕時計の存在の認知度向上でしょう。

そもそもSFCでは実際に影響を受ける科目は少ない

このように試験中の腕時計の使用禁止が明言されたわけですが、慶應SFCのいち在学生として言わせてもらえば、実際にこのルールが適用されて今自分が付けているApple Watchを外さなければならなくなる機会は少数です。というのも、自分が履修している科目は授業中の発言、グループワークによる最終発表のプレゼンテーション、プログラミングによる成果物、フィールドワークを経たレポートの提出など試験以外の実践的な部分で学生をを評価するものが多く、期末試験で成績評価する科目はほとんどありません。

つまり、期末試験自体が無い科目も多いのです。

情報を身に纏い、どう利用するかを考える時代

モバイルインターネット回線とスマートフォンの普及により、我々は常に必要な情報を必要な場所で引き出せる時代に入りました。ウェアラブルデバイスの登場によって人間と情報の距離は更に縮まり、人はこの恵まれた環境といかに上手く付き合っていくかが試されているのではないでしょうか。

そんな時代背景の中で、SFCはコンセプトとして「未来からの留学生」であるSFCの学生が卒業後の未来の社会で活躍するための問題発見・問題解決型の教育に取り組み続けています。試験前の丸暗記だけでは太刀打ちできない科目も多く、グループワークでデザインやプログラミングの分野の学生が協力して実際に動くWebサービスを完成させたりといった事は日常茶飯事。グループワーク以外でも自分が履修したプロダクトデザインの授業は、実際の素材の加工方法を学び、毎週自分がデザインしたプロダクトのプロトタイプの実物を作って提出するという、あまりに実践的で骨の折れるものでした。問題発見・問題解決を実践しつつ、その礎となる技術も並行して分野横断的に磨く事は並ならぬ努力が求められています。

一方大学生の就職活動では「コミュニケーション能力」が求められると言われ続けています。大学で共通の問題解決に向けてグループでコミュニケーションを取り解決する事は、仕事の現場で必要とされる実践的コミュニケーション能力を養う事に直結します。企業が学生に求めている能力である以上、それを養うためのこのスタイルは今後より広くの教育現場に浸透していくのではないかと考えています。

大学でApple Watchを外さなくて良くなる日は近い

ルールは常にテクノロジーの後を追う存在です。世間ではApple Watch発売後数ヶ月で施行され「早い」と称えられた今回の慶應義塾大学の対応も、以前からのスマートウォッチユーザーとしては「今更か」といったところで、正直遅すぎなのではないかと思います。しかし、テクノロジーの後を追うのはルールだけではありません。組織の仕組みも、テクノロジーを後追いし続けています。そしてもし仕組みがルールを追い越す日が来るとすれば。「腕時計禁止」というルールが不要になる。つまり、成績の評価がペーパーテストによるものからより最適化されたものに置き換えられる事によって、人間は自らのテクノロジー(=ウェアラブル通信デバイス)を制約する必要性も自ずと無くなってくるのではないでしょうか。

そもそもカンニングで解けてしまうような問題は、その程度の問題なのです。参考資料さえあれば、問題ですらなくなる問題です。我々はそういった問題の解決は情報技術に任せ、人間にしか解決できない問題に取り組むべき時代に突入しています。

一概に全ての分野にこれを最適解とするわけではありませんが、インターネットの登場により人の働き方が変わり、求められる人材も変わってきた事は明確。それに合わせて、社会に人材を輩出する大学の在り方も変わってくる事は、ごく自然な流れでしょう。

つまるところ、Apple Watchを付けているとか、付けていないとか、スマートフォンの電源が入っているとか、そういった事は気にしないでも良くなる時代になるんじゃないか、ということです。

余談ですが……

外から見るとアーリーアダプターが多いイメージのある慶應SFCですが、在学していてApple Watchはおろかスマートウォッチ自体ほとんど見かけません。そもそも腕時計自体がマイノリティです。今回の件で「スマートウォッチユーザーが多いSFCだからこその禁止だろう」なんて学外からは見られているかもしれませんが、目測でも1%も居ないように見えます。その1%にも満たないスマートウォッチの存在で全ての時計が禁止されてしまったのは、何だかちょっと理不尽かもしれませんね。

Taka

Taka

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GNEXのデザイン担当です。